農業は気候変動による影響を受けやすい分野のひとつですが、ワイン用ぶどうの栽培でも、栽培品種の変更や味の変化などの影響が出ています。しかし、ワインの生産では、温暖化がポジティブに働く場合もあるといわれています。
そこで今回は、気候変動によるワインへの影響として、ぶどうの栽培品種や味の変化、温暖化をポジティブにとらえた事例をあわせて解説します。
何世紀にも渡り、世界の伝統的なワインの生産地は北半球の北緯30〜50度、南半球は南緯20〜40度に位置していました。これを東西に結んだ地域をワインベルトと呼び、ぶどう栽培やワイン造りに適した場所として示しています。
しかし、気候変動による気温の上昇に伴い、ワインベルトの位置が徐々に変化しつつあるのです。
例えばヨーロッパでは地域ごとに気候に適したぶどうの栽培品種があります。けれども現在の気候から2度気温が上昇すると現行品種での栽培が難しくなり、今まで問題なく栽培できていたぶどうの品種がその土地に適さなくなるのです。
近年、ワイン生産者は思いきってワインの産地を変えるか、あるいは栽培地を変えずに育てる品種を変えるかの選択を迫られています。
気候変動による影響により数々の選択を迫られているワイン生産ですが、一方で温暖化をポジティブにとらえ、新しい可能性を見出しているワイン生産者もいます。
ここでは日本におけるワイン生産の事例を2つ紹介します。
温暖化によって新しい栽培品種の生産が可能に
北海道の代表的なワイン用ぶどう産地である余市町や三笠市、上富良野町、北見市などで栽培可能な品種は寒冷地に適した「ツバイゲルト」「ケルナー」などに限られていました。
しかし、1998年頃から北海道を含めた北日本で気候の変化が見られ、北海道の平均気温が1.4℃上がったため、今まで栽培が困難だった高級ワイン用ぶどう品種の「ピノ・ノワール」の栽培が可能になったのです。
また、これらの地域では質の良いワイン造りができる傾向が高くなっているといわれています。ただし、雪不足の冬では最低気温がマイナス20℃に及ぶこともあるため、ぶどうが凍害にあう可能性もあり、油断はできないということです。
(参照:気候変動で北海道の産地でワイン用ブドウ「ピノ・ノワール」が栽培可能に)
(参照:気候変動によるワイン用ぶどう栽培とワイナリーの変化)
収穫期を1カ月遅らせる工夫をする生産者も
ワイン用ぶどう栽培の発祥地でもある山梨県では、温暖化の影響によってここ100年間で2℃以上平均気温が上がっています。そのため、通常は黒く着色する品種が暑さの影響でまだらになってしまうことに頭を抱えていました。
しかし、新たに副梢栽培(ふくしょうさいばい)という方法を用いて収穫期を1カ月遅らせることに成功しています。
副梢栽培は花が咲く頃に枝の先端部分と房を切り落とし、葉の付け根から伸びてきた新しい枝の房を使用する栽培方法です。こうすることで、通常9月に迎える収穫期を10月に遅らせることができるといいます。
現在の山梨県は夏が非常に暑く、10月下旬〜11月に入ると急激に気温が下がるため、収穫期を遅らせることでワインに理想的なぶどうが栽培できるとされています。
(参照:温暖化でもワイン作り続けたい“簡単な”栽培方法でぶどうの成熟を涼しい秋に遅らせる)
世界のワイン用ぶどう栽培地では、気候変動による気温の上昇や山火事などによって味に変化が見られるケースがあるといいます。
ワインは熟成したぶどうを収穫し、絞った果汁をアルコール発酵させたものです。ぶどうには、光合成によって果実に蓄積する「糖」、ぶどうが熟すことで分解されていく「酸」、それ以外に「アントシアニン」や「タンニン」といった二次化合物が含まれます。
これらのバランスによってワインの味が構成されますが、気候変動による気温の上昇や火災の煙で味のバランスが崩れてしまう可能性があるのです。
温暖な気候でぶどうが熟し過ぎれば、酸の分解が進み糖度が増していくため、甘すぎるワインになってしまいます。
甘いワインを生産するには良い条件ですが、酸味のあるワインを作りたい生産者にとっては非常に厳しい状況といえるでしょう。世界のワイン生産者には気候変動に対する適応力が求められています。
(参照:Climate change is altering the chemistry of wine)
気候変動によってワイン生産はさまざまな影響を受けていることがわかりました。しかし、温暖化をうまく利用し、工夫をしながらワイン用ぶどうの栽培に向き合っている生産者たちもいます。
温暖な気候の中で酸味のあるワインを作ることには、相当な労力を要するのかもしれません。これからワインを飲む時には、ゆっくりと味わいながら生産者の苦労や努力に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
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